現役の老いた水車


冬の間の穴倉作業は、当たり前だがワラが主流になる。
そのワラもハゼワラが一番いいと匠のじっさたちが口をそろえる。
「ハゼワラって?」
コンバインで刈り取って立てかけたものでなく、ちゃんと下から刈ってハゼという竿にかけて干したワラのことをいう。ハゼに掛けるのは少し早めに刈るからいくらか青いということだ。
それをわずかしめらして叩くと、余分な外幕が取れ、ワラも柔らかくなる。
少しなら手で叩いてもいいが、ここで使う量は半端ではないから、こうして近くの水車でコットンコットンやって、細工用のワラをこしゃる。
「4束ぐれえがちょうどいいなあ」、そう言いいながら包んだゴザの中から3~4本ずつ引き抜く。
この老水車、朽ち果てそうな外見ではあるが、中の機能はしっかり現役をしている。
ここのじっさたちと同じだ。 (続く)

穴倉は少しけぶい


「わしらん子供ん頃は、けえって来たらまず縄さいちぼ編んだでよお」
両手を広げた長さが1ヒロで、その20倍のものを’いちぼ’という。
これを沢山こさえておくと、生活の中で何にでも役立つから。
「女の子だって遊んじゃあいねーよ」
他人家(ひとんち)の赤ん坊までお守してお駄賃はなし。盆正月に菓子を少しくれた程度だったから、村中が家族みたいなもんだったという。そんな時代はもう絶対来ることはない。
午後になり、2時を過ぎる頃に中に入ると暗く感じる。中に居ればそれほどでもないが、誰かが電気をつけた。
60Wの裸電球が2個と、古いランプ1個がぶら下がっているだけだ。
暗くなればもっと明るさを発揮すると思うが、今はまだ障子の近くやそれに向かって作業を進める。
時々松の薪などをくべるが、下手なくべ方をすると煙が多く出てけむい。
Bじいが、いたずらで作ったミニサイズの雪靴がかわいい。 (続く)

穴倉は楽しい!


昔はどの地区にも穴倉があり、子供から老人まで男だけが出入りし、悪さも含めて色んな事を覚えたという。誰が遊びに来ても構わないから、唯一冬場の温かい娯楽施設だ。
ここで生産するものなどたかがしれているし、売り上げにしても大したことはない(目の前の河原の湯で販売中)が、こういった手作業がまだ語り受け継がれることの意義は大きい。
さて、襖に一番近い場所にDじいさんがいる。
時々話しかけてくるが、声が小さいと何度も聞き返されるから、他の衆は皆大声で返事をする。そう、耳が遠いのだ。
このDじいだけは梱包用のヒモを使い、魚籠(びく)を幾つもこしゃっていた。
まるで公民館やどこかの体験コーナーみたいに、手順さえ覚えれば誰にでもできそうな・・。(ごめん、でも丁寧でした)
ここに集うのは欲でも何でもなく、皆がいるからという遊びの広場の延長かもしれん。
片隅の空になった一升瓶が子供との違いか。 (続く)

ワラぞうりⅢ


このCじいさんは、ビニル芯にワラを編みこんでいく。口も動かすが仕事は早い。
「いやあ、昔はもっと早かっただ」と、ちっとも謙虚でない。
裏のはみ出た部分をハサミでチョンチョン。
そしていろりの火の中にさっとくぐらせると、もう次の準備にとっかかっている。
見てるとどの匠にも共通点があることに気付く。
大きな声で言えないが、手のひらに引っ切り無しにツバをぺっぺしているのだ。どうやらこの「ツバッペ」が1つのこつみたいだ。
お茶の時間に煎餅を手渡されたが・・、まあいいか。
下の作品は会長のAじいさんのだ。
ビニル芯に切り裂いたボロ布で編みこんだものだから、ワラは一切使用していないが、ワラより手間がかかるようだ。
この日5人が作業してたが、一番丁寧な仕事をしているように見えた。
同じ作業でも、質より量、量より質、性格の違いかはっきりしている。
最近でこそボロ布を使うが、当時はどんな布でも貴重品だったはず。でもこのA会長さんの作品は、材質からいうとワラぞうりならぬ「ボロぞうり」では。
どろんこでも履いたことがあるが、裸足で履くとじつに気持ちいい。(続く)

ワラぞうりⅡ


どろんこ近くにあるこの穴倉は、壁になる部分は石積みされ、外はて土で覆われている。
屋根は丸太組に茅葺きだから、外見は障子ありの縄文時代の竪穴式住居である。その障子が室内を明るくしている。
さてワラぞうりの続きを。
骨組みとなるヒモや鼻緒を太目のビニルヒモや市販の縄で始める人もいるが、このように手足、身体を大きく使い、あっという間に縄を編んでからこしゃる人もいてさまざまだ。
鼻緒とは、ワラぞおりの途中から編みこむ足受けとでも申しましょうか、写真手前の丸くなった赤い部分をさす。
こうして笑いながら作業を進めてる時は、少し下ネタが多い。(続く)

ワラぞうりⅠ


今時ワラぞうり(ワラサンダルともいう)を作っても誰がはくの?
この穴倉で作業する年配方にとってそんなことはどうでもいい。
ただ黙々と手が、足が、そして時々口が達者に動く。(じゃあ黙々ちゃうやん)
「毎日来てるの?」
「めーんち来んのもおるが、適当だがや、なあ」と仲間に確認している。
ワラぞおり作りもおもろいが、方言も楽しいから一緒に喋くる。
ここで1番多く作られているワラジの手順はこうだ。
「かり足」という作業道具に1本の縄、又は同じくらいの太さのビニル紐を手品のように素早く引っ掛ける。
昔は自分の足の指でやったそうだ。その代用だから借り足、又は仮足と呼ぶがどの字か定かでない。
とりあえずはこんな形から、引き寄せた手元を別のひも(ワラや切り裂いた布)でギュっと縛り、機織りの要領でスタートしていく。
スケッチしてると「あちち」、はじけた火を踏んでいた。(続く)

馬のワラジ?


でこぼこした畳16枚のほぼ中央にいろりが、そして枝の付いた自然木の大黒柱に無造作に掛けられたこの異なワラジ。
「これはなに?」
「馬のワラジだ」
馬のワラジなんて今時需要などないが、こうした証拠品は、当時の農家はいかに牛馬を大切にしていたかを雄弁に物語っている。
昔、ここらでは子馬のことを「とうね」、又は「とーね}と言ってたそうだ。
そのとうねが使ってたというAじいさん。
「遊んでる子馬でなく、働いてる親馬が使っただ」というBじいさん。
どっちも正解だと私は思った。
こんないろりでしか暖をとれない時代なんだから。(続く)

穴倉ってなんずら?


どろんこから車で走ること3分、この時季だけ(12月~3月)穴倉でワラ細工を楽しむお年寄のグループがいる。
昔は生活の足しにされてたものが、現代では匠の技の伝承になっている。
そんな穴倉の一端をウオッチしてみよう。
背景のコンクリ壁は気に入らないが、一旦は取り壊された穴倉が昨年こうして復活された。
まずはその正面玄関と、中から入り口を見たところだ。
ん?、いきなり障子の襖かねってところからノックしてみた。(続く)